地域産品・6次産業化における「繋ぐ専門職」の必要性

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    ◇失敗して辿り着いた食を繋ぐ専門家



    始めまして、私は主に高知県内で、商品企画から試作開発・販売促進まで、食関連のトータルプロデュースの仕事をしています。得意な手法は、生産者だけでなく販売者・消費者を巻き込んだ、マーケットイン型の商品開発・販路開拓です。

    私は以前、シンクタンクの研究員から脱サラして起業し、地域産品専門店の経営で、大失敗を経験しています。今では、その失敗も前向きに生かして、プロジェクトが失敗しないよう、できるだけ「事前に相手先の喜ぶ姿が想像できる」商品企画を心がけています。

    というのも、これまで、地方の様々な特産品開発・農産物の販売の現場を見てきましたが、どこの誰に届けたら最大限満足していただけるか、喜ぶ人の姿が想像できていないケースが多いと感じるからです。

    本当は、世の中に必要とされていない食材・商品なんてありません。すべて貴重な資源です。なかなか売れない状態になるのは、作り手・売り手・買い手との間に、何らかの気持ちのズレが生じているからなのです。

    そんな中、私は、作り手(農家・生産者)と売り手(飲食店・小売店)または買い手(消費者)をつなげる、作った人の気持ちを買いたいと思う人に届ける「食の繋ぎ役(コネクター)」を専門職として育成し、活躍できる場を作ることが必要ではないかと思っています。

    現在、私がコンサルタントとして商品開発・販路開拓をお手伝いする時は、まず、はじめに販売先や喜んでいただけるお客様を先に決めてから、販売先やそのお客様と一緒に、商品や売り方を考えます。その結果、最終的には販売者からもお客様からも感謝されるものができあがり、売れる状態になります。

     

    今、食の6次産業化は、1次産業(農業)、2次産業(加工)、3次産業(飲食)の分野のみで、縦割りで進めてもなかなかうまくいきません。「すべては食の現場を応援してくれる人のために」という共通の目標のもと、互いの強みを活かしてコラボレーションにより、新たな商品またはサービス(価値)を生み出さなくてはなりません。

    そこで、これから必要になってくるのが、異業種の業界をつなぎ合わせ、生産者と消費者の心の距離を縮める繋ぎ役の存在です。
     

     

    ◇農家が自分で販売先と価格を決める難しさ


    先日、県外の山間部に行く機会があり、そこでアヒル農法により農薬を使わずお米とアヒルのお肉を同時に作ろうという考え方で、「アヒル水稲同時作」を実践している若者に出会いました。お米がメインでアヒルが副産物でなく、どちらもメインの商品です。その若者は動物が好きで、アヒルたちにもできるだけ住みよい環境で、餌も添加物や農薬をできるだけ少ないもの(玄米、ヌカ、大豆等)を地元から調達して、愛情を持ってお米と一緒にアヒルも育てています。

    このアヒルは、大切な冬場の収入源として、精肉で販売し、現金化したいのですが、昨年、ほとんど販売できず、冷凍の状態で在庫として抱えていました。悩みの種は、「どこの誰に販売していいかが分からない」「販売するとしていくらの値をつけていいかも分からない」ということでした。
     

     

    昨年いくらで売り出したか、どんな考え方・基準で価格を決めたか尋ねると、目に見える出費がコストで、手間代(人件費)=利益(自分の給料)といった考え方でした。手間代+利益だと2重に利益を得る形になると思っていたのです。このため、私はてっきりお肉の卸値は大変安いものであると思い込んでいました。ところが、昨年、自分で設定した価格は、相場の2倍近い、大変高価な食材の値段でした。おそらく最終的にはもっと高く売らないと経営的に成り立たず、さらには、販売先はかなり限定されることが、容易に予想された瞬間でした。

     

    ◇農産物の価値・適正価格はどう決まるか

     
     

    一般的に製造業であれば人件費は製造原価(直接経費)で、製造原価に諸経費(間接経費)、さらには自社の利益を上乗せして販売価格を設定します。会社は利益がないと経営が成り立ちません。利益の中から、急な出費や将来の投資にお金を回さなければなりません。

     
     

    ただし、利益をどれくらい乗せられるかは、簡単には決められません。市場ではライバルがいるので、常に価格を比べられ、選ばれます。一番いいのは、ライバルがいない世界で自分の言い値が通る状態ですが、それがなかなか見つからないので、みんな競争関係で苦労しています。

     
     

    そういった中で経営を持続させるためには、まずは適正価格を自分で計算する、具体的には原価を弾いて、粗利を平均レベルでのせた金額が、ベースとなります。それよりももっと価値があるかどうか、逆に高すぎて使えないと言われるかは、相手先の価値観や売り方の技量にもよるので、評価はかなりバラツキがあります。自分の商品にとって、どの販路が良くて、いくら利益を乗せた金額が適切なのか、これを判断するのは、かなり経験と流通・市場の知識がないと悩ましく、決められません。食の現場では、市場出荷している農家以外でも、自分で価格を決められない農家が、依然として多いのが実態です。

     

    ◇1次産業がなくなると成り立たない6次産業

     

    そんな中、国(農林水産省)は、農家・漁業者の6次産業化を盛んに進めています。

     

    そもそも6次産業とは、農業や水産業などの第1次産業が、食品加工(2次産業)・流通販売(3次産業)にも業務展開している経営形態のことで、農業経済学者が提唱した造語が、今では、国の事業・法律の用語にまでになっています。「1+2+3=6」の足し算または「1×2×3=6」の掛け算で6次産業と表現されています。

     

    数年前から始まった6次産業化ですが、事業説明会で、ある町の農家が発した言葉に、私は感銘を覚え、今でもその言葉ははっきりと思い出します。その農家は、6次産業化は掛け算だと主張しました。「ベースとなる1次産業がゼロになれば、それに続く産業も、ゼロになる」。

     

    別の会合でも、偶然にも、同様の意見が、県内の加工事業者から聞かれました。「農業がなくなれば、私たち地場の食品メーカーも成り立たない」と。

     

    ◇今こそ、作り手・売り手・買い手を繋ぐ専門職を

     

    私は、国が進めている、1次産業者自らが、リスクを覚悟で6次産業に取り組むことも、必要だと思います。ただ、小規模零細の農家・漁業者が多い地方では、さらに地域全体としての6次産業化、つまり、1次産業者と既存の2次・3次産業者が手を組んで、新しいビジネスを興す仕組みづくりこそが、必要ではないかと感じます。

     

    生産者は高く売りたい、購入者はできるだけ安く買いたい。この市場原理の構造の対立・溝を少しでも埋めることができる、調整役・繋ぎ役がいれば、食の産業は、もっと永続的に発展するのではないかと思います。

     

    農家の経営が持続可能な状態になる、適正金額で販売できるところを探す。それを購入するレストランもお客さまも、美味しいと、適正な金額を気持ちよく払ってくれる。作り手・売り手・買い手が、三方良しの価格設定を実現させるために、誠意をもって、お互いが納得できる形でつなげる、専門職の確立と増加を、切実に希望します。

     

    「1次産業がなくなれば地域の産業もなくなる」、この言葉をしっかりと胸に刻み、1次産業と2次産業、3次産業の気持ちがつながり、連携・協力して、=6以上の広がりのある、産業・文化の発展につなげていきたい。地方の一人の食のコンサルタントの願いです。

     

    寄稿文:地方自治体情報誌「つな研なび」第43号掲載


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